夏風邪とモノグラムな指
「…………哲?」


目が覚めた時、あたしの視界に哲が写っていた。


枕元の時計を見ると、あれから二時間以上経っていた。


「……ずっといたの?」


あたしが口を開くと、哲は微笑んだ。


ああ、こういうところもだ。


可愛い笑顔の中に、どこか妙に色気を感じる。


あなた、本当に高校三年生?


そんなこと言ったら、大学生になってまで夏風邪引くのはおかしいって言われるから言わないけど。


「千波が離してくれないんだもん」

「え?」

「手」


ちらりと視線を下ろすと、あたしの右手と哲の左手の指はしっかり絡み付いたままだった。


寝ているときもずっとこのままだったらしい。


「ご、ごめん……」

「別にいいけど」

「は?」

「千波の寝顔見放題だったし」


あたしの顔に熱が集中したのがわかる。


この年になってまで寝顔見られたとか、どんだけ無防備なの、あたし。


何より哲に見られたことが恥ずかしい。


昔から見られてたから今更だけど。


左手で布団を鼻の上まで上げて、「悪趣味……」と呟くことしかできない。


哲の手はまだあたしの額にあった。


「熱、まだあるね」

「でもだいぶ楽になった……」


さっきよりは熱が下がったからか、ぼんやりしなくなった。


視界もはっきりして、哲の顔が鮮明にあたしの目に写る。


「……何?」


哲の声に、あたしははっとした。


あたしの左手が無意識に哲の唇に伸びていた。



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