夏風邪とモノグラムな指
あたしはすぐに状況を把握することはできなかった。


あたしのすぐ上に哲の頭があった。


顔同士がいつもより近くて、なんだか焦る。


「哲……?」

「あのさ」


口を開くだけで色気を発する人なんてそうそういるもんじゃない。


色気に侵されてクラクラしそう。


「俺を煽ってんの?」

「へ?」

「寝顔だけでもやばいのに、わざわざ俺の理性ぶっ飛ばせるようなことしてさ」

「あの……」

「風邪なんか関係なしに襲いたいくらいなのに」


や、それは困ります。


人が風邪引いてるときに襲われるとか鬼畜過ぎるでしょ。


「……哲」

「何」

「あたし、哲のこと好きだから」


あたしがきっぱりと言い放つと、哲が大袈裟にため息をついた。


「この状況、俺が先に言うとこじゃないの?」

「あたしの方が確実に好きだからさ」

「俺に嫌われてもいいって?」

「まあ、普通の人はこんなこと、嫌いな人にはしないよね」

「熱、下がった?」

「逆に上がった」


何気に告白したんだからね、あたし。


平然にしているように見えて、実は今かなり熱が顔に、いやむしろ全身に拡散している。


もう泣きそう。


たぶんあたし、目が潤んでいると思う。



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