透叫
「君が代理の人か。本店の支配人に聞いたよ。優秀なんだって?」
四黒は半分嫌味を込めた微笑で言った。
自分よりできる奴が来たら、俺なんかいらなくなるじゃないか。
四黒の予感は見事、的中する。
「それほどでもないですよ。でも、できたらこのまま正式な店長になりたいと思っているんです。それで…」
「だめだ!!」
高宮の言葉を遮り、四黒は怒鳴りつけた。
ビックリした高宮はそのまましばらく動けなくなる。
「君が店長になったら、俺はどうなる!?そんな店を乗っ取るような真似、させないからな!」
四黒の言葉は黒く濁り、高宮の胸に絡みつくようだった。
「乗っ取るだなんて!ただ、僕はこの仕事が好きで、あの店で店長としてずっと働きたいと思っているだけです!」
高宮の叫びに、四黒は応えなかった。
彼の目を見ようとせず、窓の方を向いて一言呟いた。
「支店長に代理を換えてもらう」
俺の店をこんな若造に渡してたまるか。
それにあの店には路咲がいる。
こんなおいしい役を降りるわけにはいかない。
四黒の思想はいよいよどす黒くなり始めていた。
その時、高宮の携帯が鳴り響いた。
樹乃とおそろいのクラシックの曲だ。
「す、すみません!」
高宮は慌てて携帯をポケットから取り出し、電源を切ろうとした。
しかし右手の親指はディスプレイに写った文字に動きを止め、通話ボタンへ移動する。
「すみません、すぐ戻ります」
そう言って早急に部屋を出ようとしたが、出る前に通話ボタンを押してしまった。
そして呼びかけてしまったのだ。
自分の彼女に。
「どうした?樹乃」
スライドドアが閉まると同時に、四黒は勢いよく振り返ってドアを凝視した。
樹乃?
あの、路咲樹乃のことか?
まさかあの2人…。
四黒の予感はまたしても的中し、邪な考えは順調なほど膨らむ一方だった。