透叫
世界の顛末では、イザトが少し困った表情で小さな紙に足元を埋めていた。
その状況を見たイザヤは少し呆れ気味にため息をついた。
「自業自得というやつだろう」
静かにイザトに近づき、そう言うとイザトは苦笑してみせた。
イザヤに続いて部屋へ入ったオリシャは、何が起こっているのか把握できずにいる。
「これ、どうしたんですか?」
オリシャがイザトに問うと、代わりにイザヤが答えた。
「自分で仕掛けた破滅の力に負けてるのだ」
「イザヤ…。そんなんじゃない。ただ、予想外に人間の願いが多かっただけだ」
同じことだろうと思うが、自分の責任だと認めようとしないイザトを放置し、イザヤは床に散らばっている紙を数枚拾い上げた。
それはイザトが透叫に設置したポストに投函された、人間の願いが書かれた紙。
さほど時間は経っていないのに、これだけの数がポストに投函され、神の元へ届いたのか。
「人間とはやはり、欲にまみれているのか…」
千切れたものや、香りのするもの、可愛い絵が描かれている紙を見つめながら、イザヤは呟いた。
オリシャもそれに倣って願いの紙を興味本位に拾って読んでいく。
「そうかもしれないが、かくも人間は貪欲にまみれているわけではないみたいだぞ」
イザトがそう言って、手に持っていた紙をいくつか広げてイザヤに手渡した。
そこには子供が書いたのか、ミミズがのたくったような字でこう書かれていた。
“おかあさんのびょうきがなおりますように”
“おばあちゃんとずっといっしょにいられますように”
“おねえちゃんとけっこんできますように”
“ぼくにおとうさんとおかあさんができますように”
「…子供のものばかり集めるな」
イザヤはこの願いに和む気持ちを押さえつけて言った。
子供は純粋だ。
「いいじゃないか。こんな願いも、叶えられる範囲では叶うが、周りの人間が少なくとも不幸になる。それを理解しないで投函しているなんてな」
イザトの言いたいことは分かる。
子供は純粋だが、それ故に残酷でもある。
おおかた、噂でポストの事を聞いて投函したのだろう。
情報が欠落した噂話のせいで、背負う必要のない罪を、子供は知らぬうちに負ってしまうのだ。
そんな噂話をするのも周りの大人や若者だ。