透叫
「しかし、この調子だと大変な事になるな…」
イザトが足元に積もる紙を見ながら言う。
紙は箱庭の横に置かれた、同じく黒いポストの投函口から排出されてくる。
イザトなら紙を燃やすくらいはわけない筈なのだが。
「どうしてですか?」
イザトの言葉に疑問を投げかけるオリシャは、願いを読む事を止め、紙をかき集めてどこからか出した麻布の袋に入れ始めた。
麻布には大きく“GOMI”と書かれている。
なぜそんなものを持っているのか、さすがにイザヤも不思議に思った。
「願いの紙は破壊の力になるからだ。紙には人間の欲が込められているからな。だから自業自得だと言ったのだ」
イザトが答える前にイザヤが口を挟み、当のイザトは苦い顔をした。
破壊の神は人間の負の力を元に箱庭を破壊する。
一人一人の力は弱くとも、数が集まれば強大な力になる。
そう、1つの世界を破滅させるほどの。
「オリシャ。というわけだから、それ捨てないでくれよ?」
すでに2つのゴミ袋が紙で膨れあがり、もはや確認するまでもなく、次々に出てくる紙をオリシャは袋に詰め込んでいた。
「分かりました。とりあえずここに置いておきますけど、きりがないですよ?」
がさがさ音を立てながら紙を入れていくオリシャを見て、イザヤは透叫を見つめた。
これだけの願いが投函されているのなら、今頃街は不幸な人間で埋め尽くされているのではないだろうか。
叶わない願いはあっても、代償の大きい願いも叶う範囲なら叶ってしまうのだから。
些か不安になる心に、イザヤは苛立ちを感じた。
人間に近づくことを拒絶するかのように。