透叫

夜中の病院ほど気味が悪く、恐ろしいものはないと四黒は本気で思った。
総合病院の廊下を歩いて向かっているのはある病室だ。

四黒は若い頃から女好きで遊びも激しく、噂を聞いて知っていながらも、女の子たちは四黒のうまい話やキャラに惹かれていた。
歳をとってもその魅力は劣らず、この総合病院でもナース達に声をかけては喜ばせていた。

そして今夜、お誘いされたのだ。
使われていない病室があるから、そこでの逢引をと。
意気揚揚と病室を出たのはいいが、しんと静まり返った廊下と、階段の上に光る非常口の看板がやけに目について恐怖を煽る。

「はあ…。なんで俺の病室じゃないんだ」

ひとり呟きながら暗い廊下を進んでいくと、突き当たりの階段の横に黒い物体が見えた。
遠くから見ると目の錯覚のせいで、黒い物体が揺らいで見える。

「ひっ!?」

正体が分からない物体に短い悲鳴をあげ、四黒は冷水を浴びせられたようにどっと血の気が引き、いやな汗が滲んだ。
恐る恐る近づいていくと、だんだんと目の錯覚はなくなり、ただそこに置いてある黒いポストだと見て取れた。

「って、黒いポスト?」

瞬きを数回し、手で目をこすってみたが、やはり間違いなくポストだ。
四黒はいよいよ幻覚が見え始めたのかと、乾き始めていた汗を再び湿らせた。

非常口の看板の光で妖しく照らし出される姿は無気味な程で、そっと触れてみると鉄の感触がする。

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