透叫


「あ、そういえば…」

ふと冷静になって考えると、ナースは思い出した。

「黒いポストの噂、聞いた事あるわ」

その言葉に四黒はすぐに反応した。
その反応がなぜ自分の色気に出ないのかとナースはふくれっつらをしたが、四黒はなんだか必死に見える。

「友達から聞いた話なんだけど、最近黒いポストを見る人が増えてきたんだって。そのポストに願いを投函すると叶うとかなんとか…。試した人もしるらしくて、本当に願いが叶ったんだって」

ボタンを留める手を休めてナースは再び谷間をちらつかせて話した。
だがやはり四黒はナースに目もくれず、黙り込んでまた考え始めてしまう。
気分もすっかり萎え、ボタンを全部留め終えて、ナースはため息と共に話の続きを語った。

「叶う願いと、叶わない願いがあるみたい。私は見たことないけど、願いを投函した人はそれっきり見えなくなったんだって。つまり、願い事は1度しか叶えられないのね」

四黒はナースの話を聞きながら、口元を歪め始めていた。
誰が置いたのかは知らないが、あれは本物だってことか。
1度しか願えないのなら、よく考えなければ。
そして確実に叶うものを。
高宮と樹乃を別れさせる?
いや、それだけじゃだめだ。
樹乃が俺のものにならないと意味がない。
それに店の事もあるしな…。
止め処ない思考に四黒は支配され、ナースの存在すら忘れかけていた。

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