透叫
「イザヤ、俺の役割を取り上げないでくれ」
苦笑交じりにそう言って、イザトは小さな箱庭に右手の握り拳をかざした。
拳の中には黒い粉末が握られており、それを指の隙間から少しずつ満遍なく降りかけていく。
「イザト…!」
制止の意味を含めた呼びかけに、イザトは軽く微笑んで応えた。
「悪いな。破滅への道の手助けを、俺はしなくてはいけない」
イザヤは何も言わず、ローブの裾を翻して扉に向かった。
「どこへ?」
「…散歩」
イザトの問いに一言だけ呟き、イザヤはこの空間、名称「世界の顛末」から出ていった。
一人残ったイザトは、イザヤの残像を見るかのように扉を見つめる。
「散歩ね。…怒らせたか?」
その疑問に答えてくれる者はなく、イザトは1人で、イザヤの分も透叫を見守ることにした。