透叫
次の日、大学の帰りに沈んだ気分のまま樹乃はバイト先へ向かった。
今日は朝から雨がぽつぽつしていて湿度が高い。
樹乃はセットした髪の崩れを気にしながら、通常口から店内に入った。
すると中はざわざわと騒がしい。
バイトの人達が廊下の所々で数人ずつ固まり、興奮気味に話をしている。
樹乃は更衣室へ入ると、それに気付いたバイト仲間の法香が話し掛けてきた。
「樹乃ちゃん大変!店長が昨日事故に遭ったんだって!」
狭いスペースにロッカーが壁際に置かれ、絨毯の上に靴を脱いで上がる。
樹乃は自分のロッカーに行く前に法香と対面した。
法香は樹乃より5つ年上で、お姉さん的存在だった。
「それ、本当ですか!?」
樹乃は驚くや否や、昨日のことを思い出した。
…まさか。
「本当なのよ!でね、代わりの店長がさっき来たんだけど…」
法香はそこで言葉を切り、樹乃の耳元に手を当てて言った。
「かなりのイケメンなのっ!」
すでに周知の情報だったが、内緒話にしたくなるほどの男性らしい。
樹乃は動悸と脂汗が浮くのを感じていた。
願いが叶ってしまった?
その犠牲が店長の事故?
私のせいで?
ひたすら頭を駆け巡る疑問に混乱し、ただ鼓動の音を聞くのに精一杯だった。
「樹乃ちゃん?大丈夫?顔色が悪いよ」
法香が心配そうにそっと背中を撫でる。
それによってようやく落ち着きを取り戻した樹乃は、大急ぎで自分のロッカーを開けて店の制服に着替えた。
もし本当に願いが叶ったのなら。