透叫
「法香さん、その店長って今どこにいますか?」
着替え終わって一息つく暇もなく、捲くし立てるように問い掛ける。
その俊敏な動きに驚き、躊躇いながらも法香は答えた。
「じ、事務室にいると思うよ。急な代役だったから、店の現状を把握したいって言ってたし…」
「ありがとうございます!」
法香の言葉を聞くとすぐに樹乃は更衣室から飛び出した。
樹乃が書いた願いは2つだ。
1つは店長がイケメンに変わること。
もう1つは…
「失礼します!」
樹乃は事務室に勢いよく飛び入ったせいで、前につんのめった。
転びそうになったところを、ドアの近くにいた男性が間一髪で抱きかかえる。
その男性こそ店長代理の高宮白だった。
樹乃は高宮の腕の中でさわやかな香水に鼻腔をくすぐられ、鼓動が高鳴った。
「あ…、すみません」
慌てて離れようとするが、高宮は抱きしめた腕を離そうとしない。
樹乃は顔を上げて離すよう言おうとしたが、目が合った瞬間、背筋に下から上へ流れるような痺れが走った。
胸いっぱいにときめきが広がる。
そう、もう1つの願いはそのイケメン店長と恋に落ちることだった。
「大丈夫?」
高宮が優しく微笑んで声をかける。
その表情はどこか照れくさそうに、はにかんで見えた。
「はい…」
頬を赤らめた樹乃は戸惑いも感じながら、容姿端麗で好男子な高宮を目の前にめろめろになっていた。
こうして店長代理1日目にしてバイトの子とカップルになった高宮。
初めは批判も受けたが、その優秀さと立ち回りの良さから、皆に親しまれる良い店長になった。
樹乃はバイト仲間に疎まれながらも、高宮との恋人生活を満喫していた。