透叫
高宮が店長代理となってから1ヶ月が過ぎようとしていた。
季節は夏から秋へと変わり、吹く風も次第に冷たくなってきた。
樹乃は一人暮らしだったが、高宮に誘われてアパートを引き払い、高宮のマンションで一緒に住むことになった。
「店長、本当にありがとうございます。すごく助かります」
2人は今、樹乃の部屋で荷物の整理をしていた。
店のいらないダンボールを使い、引越し屋も呼ばずに高宮宅へ移るため、全部自分でやらなければならない。
当然、というような顔で高宮は手伝った。
「気にしないで。男手が必要でしょう。それに車も。それから、店長って呼ばないでって言ってるのに」
高宮は苦笑交じりにそう言って、本が詰められたダンボールにガムテープを貼っていく。
樹乃の部屋には物が少なく、大体の家具も家電もアパートに備え付けてあったものだから、運び出す物も実に少ない。
ただ、勉学用の書籍や教本だけは多かった。
これが予想以上に重い。
「ごめんなさい。だって今日の白さん店長ルックなんだもん」
樹乃はダンボールに服を詰めながら、くすくす笑って言う。
高宮は確かに白いYシャツに黒のパンツという、店でいつも着ている格好をしている。
そのせいか自然と店長扱いになってしまうらしい。
ちなみに樹乃は淡いピンクのパーカワンピにデニムという格好。
ワンピの裾には秋桜の花が描かれている。
「ここに来る前に店に寄ってきたからね。それに、今日は四黒店長のお見舞いに行こうと思ってるから」
高宮の言葉に樹乃の笑顔が凍りついた。