淡く儚い月に見守られ
隣ではサイフォンのお湯がぐつぐつと上部の漏斗に湧き上がり上昇すると、ミルで挽かれた細かなコーヒー豆をゆらゆらと躍らせ、その後琥珀色に染まった熱い液体が一気に下に設置されたフラスコに降りてきていた。

遥翔はコーヒーをカップに注ぐと杏奈の前に差し出す。

「はいコーヒー、砂糖とミルクはお好みでどうぞ」

「ありがとうございます」

「そっか、杏奈ちゃんはまだこの世界に入って間もないもんね、そりゃ慣れない仕事もあるよね。でもさ、この世界に入った以上君もプロなんだからどんな仕事でもやらなくちゃね、ましてやまだ駆け出しの新人なんだからなおさらだ」

遥翔の言葉に初めての演技の感想を述べる杏奈、そこには今後の杏奈の成長をにおわす言葉が隠れていた。

「確かにそうですよね。だけど遥翔さん、あたし今回CMとはいえ初めて演技をしてみてあまりの演技の出来なさに悔しさを感じたんです」

「そう、僕はその悔しいと思える事が大事だと思うよ、この悔しさをいつまでも忘れるんじゃないよ」

「はい、でもそれだけじゃないんです」

「どういう事?」
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