淡く儚い月に見守られ
その後リハーサルスタジオに救急車が到着するとストレッチャーにより遥翔が載せられ付き添いとして五十嵐も乗り込んだが、中々救急車は走りださずその場にとどまっている。

(一体何しているのよ、早く病院に向かってくれないと遥翔が苦しがっているじゃない)

痺れを切らした五十嵐は救急隊員に必死に問いただす。

「なにしているんですか? 遥翔が痛がっているじゃないですか早く出してください」

五十嵐の必死な声に救急隊員の一人がなだめ落ち着かせる。

「落ち着いてください、今受け入れ先の病院を探しているんです。やみくもに走っても病院に着くまでの時間を長くしかねませんから」

「そうですか分かりました。仕方ありませんね、でも出来るだけ早くお願いします。こんなに苦しんでいる遥翔をこれ以上みていられません」

その後幸いにも大学病院が受け入れる事になりようやく救急車は病院に向け走り出した。

病院に向かう救急車の中で、車に揺られながらも五十嵐は懸命に遥翔に話しかけ励まし続ける。

「もう少しの辛抱よ我慢してね、すぐに病院に着くからね」

そういう五十嵐も一体この後どうなるのか不安でたまらなかった。

その後大学病院へと着いた五十嵐は遥翔が処置室へと運ばれていくのを見届けるとすぐに事務所に連絡した。

「もしもし社長」

この時岩崎は声の主が五十嵐だという事にはすぐに気付いたが、この重く沈んだ声に何か言いようのない不安に駆られていた。
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