淡く儚い月に見守られ
「杏奈ちゃんなんかおかしいんだ、右足の感覚がないんだ」

杏奈はこの問い掛けに目を合わせることが出来ず何も応えられずにいたため、そんな様子の杏奈にすべてを悟った遥翔。

「まさか右足はもうないのか?」

その問い掛けにゆっくりとうなずく杏奈。

「話が違うだろ! 足は残してくれるって言ったのに、約束が違うじゃねえか!」

「遥翔さん落ち着いて、こうするしかなかったの。命を守るためには仕方なかったのよ」

「俺の足を返してくれ、返せ!」

ベッドの上で激しく暴れる遥翔を一生懸命押さえながらなだめる杏奈。そこへ看護師たちもやってきて一緒に抑えると、更にそこへ渡辺医師も駆け込んできた。

「遥翔君落ち着いて」

「先生どうしてくれるんだよ、俺の足返してくれよ」

「遥翔君済まない、腫瘍が思ったよりも広がっていて切断するしかなかったんだ。そうしなければ君の命にかかわる。完治どころか死期を早める事になりかねなかったんだよ」

その言葉を聞きようやく落ち着きを取り戻した遥翔。

「とにかくこれからはもう一度術後の抗がん剤治療をしてもらって、その後義足を作ったらリハビリをしよう。リハビリをして歩けるようになったら退院できるから……」

しかしこの時の遥翔はやけになっていた。
< 154 / 225 >

この作品をシェア

pagetop