淡く儚い月に見守られ
その日の午後杏奈が見舞いにやって来たが、依然俯き落ち込んだままの遥翔。

「こんにちは遥翔さん、約束通り早速颯太君の所に行きましょう」

「杏奈か、ごめんもう良いんだ」

「どういう事?」

「もう行かなくて良いんだよ」

この時の杏奈は落ち込んだ表情で颯太の所に行かないなどと言い出した遥翔に一体どうしたのかと疑問に感じていた。

この後遥翔の口から放たれた衝撃の事実に思わず絶句してしまい、悲しみがこみあげてしまう杏奈。

「あいつ死んじまったんだ」

「そんなことって、どうして? まだあんなに小さいのに。この前だってあんなに元気だったじゃない」

「あいつも俺と同じ病気だったんだ、今回肺に転移が見つかって再入院したところだったんだよ。ご両親もいつどうなってもおかしくない状態だったのは知っていたらしい」

この時杏奈はあまりの悲しみに泣きじゃくってしまった。

「俺もいつか颯太みたいに死んじまうんだろうな?」

「何言っているんですか! 遥翔さんはまだどこにも転移してないじゃないですか」

「これから転移するかもしれないだろ!」 

イラついてしまった遥翔は思わず語気を荒らげてしまった。

「そんな事言わないでください」

再び激しく泣きじゃくる杏奈。あまりに激しく泣きじゃくる杏奈の姿に、これ以上悲しませてはいけないと遥翔は必死に心を落ち着かせていた。

「分かったよ、もう言わねえから泣くな」

「ほんとにもう言わない?」

「あぁもう言わねぇよ、だから笑顔を見せてくれ」

遥翔の優しい慰めの言葉に徐々に泣き止む杏奈。
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