淡く儚い月に見守られ
「そういう事ですか、先生のお考えは分かりました、確かに足を切断してしまっては隠しようがないですものね。でもせめて告知の段階では事前に相談して頂きたかったです」

「そうですね、こちらも配慮が足らなかったかもしれません。申し訳ありませんでした。今後はそのように致します」

五十嵐が病室に戻ると遥翔はベッドの上で布団を深くかぶり横になっていた。

病室のドアの開く音が聞こえ五十嵐が戻って来た事に気付いた遥翔は、ベッドにふさぎ込みながら五十嵐に問い掛ける。

「先生に何の用だったの?」

「何言っているの? 御手洗いだって言ったじゃない」

「トイレならこの部屋にもあるでしょ。下手な嘘つかなくて良いから言ってよ、どこに行っていたの」

「遥翔には嘘つけないわね、正直に言うわ。ちょっと先生に聞きたい事があったのよ」

「何ちょっとって、はっきり言ってよ」

「どの位で治るのか聞いていたのよ、遥翔には早く復帰してもらわなくちゃ困るもの、うちの稼ぎ頭なんだから」

「そんなの無理に決まっているだろ、なにが稼ぎ頭だよそんなのもう過去の話だろ。もう引退だよ足を切断しているんだぜ、もう終わりだ」
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