淡く儚い月に見守られ
「杏奈落ち着いて、お願いだから最後まで聞いて。遥翔にとって大事な事なの」

その言葉を聞き懸命に涙をこらえる杏奈。

「それでね、遥翔が入院している病院には緩和医療というものがあるそうなの。そこは残された命を病気の痛みや治療の苦しみから解放してあげて楽にしてあげるところらしいの。先生が言うにはそこの病棟に移ったらどうかって言うのよ。それで先生のこの提案を受け入れようと思うんだけど」

「それって遥翔さんが死んじゃうって事ですか、見捨てるって事ですか? やだっそんなの嫌です。もう絶対に治らないんですか?」

「勘違いしないで、決して遥翔を見捨てる訳ではないわ。これは遥翔の為でもあるの、このまま治療を続けても遥翔は辛いだけなのよ。だったらせめて治療の辛さや病気の苦しみから解放してあげようって事なの」

 その後しばしの静寂の後、杏奈は静かに口を開いた。

「ほんとにもう遥翔さんは治らないんですか?」

「出来る治療はすべてやりつくしたそうよ」 

そういう岩崎の瞳からもあまりの辛さに涙があふれていた。
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