淡く儚い月に見守られ
「ただいまパパ」

「お帰り、それよりどうしたんだいきなり帰ってきて」

「今日はお願いがあってきたの」

「だから何だ、言ってみなさい」

「遥翔さん知っているでしょ」

「あぁ彼か、今病気なんだって? 彼も大変な事になったな。それよりテレビ見たぞ、あんな事言って本気なのか?」

「その事なの、悔しいけど彼もう長くないみたいなの」

そう言う杏奈の表情は悲しみに満ちていた。

「そうかそれは残念だな、良い青年だったのに」

「それであたし決めたの」

「一体何を決めたと言うんだ」

杏奈の一言に何を言い出すのかとひやひやする直樹。

「あたし彼と結婚して最期の日を迎えるまで彼のそばについていてあげたいの」

わが娘のあまりに突然の発言に唖然としてしまい、一瞬言葉を失ってしまう直樹。

「お前今なんて言った……」

「だから遥翔さんと結婚したいって……」

「お願いってそのことか?」

「そうよ、彼との結婚を認めてほしいの」

「何を言っているお前正気か? 彼にはかわいそうだが彼はもうすぐ死んでしまうんだろ。そんなこの世からいなくなるとわかっている男の下に大事な娘を嫁にやる親がどこにいる。そもそもお前はまだ十九だ、結婚するにはまだ早い」
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