淡く儚い月に見守られ
「あなた最期の日までずっとそばにいるって言ったけど仕事はどうするの?」

「事務所に頼んで最期の日を迎えるまで休暇をもらう事にした」

「そんな事して大丈夫なの? その間にファンの方々に忘れ去られてしまう事なんてないの?」

夢を追いかける娘の母親としてはそこが一番気がかりであったが、その後杏奈の口から放たれる言葉に娘の決意を感じた。

「正直いま大事な時だから今度業界に戻るときに戻れなくてそのまま引退になるかもしれない、でもそれでも良いの」

「どうして、モデルはあなたの夢だったんじゃないの? それに最近ではテレビにもたくさん出られるようになってきたのに、パパもママもあなたの出る番組楽しみに見ているのよ」

「楽しみにしていてくれたのにごめんねパパ、ママ。でもしょうがないよ、戻れなかったらそれまでの存在だったって事よ。それにたとえ短い間でも良い夢が見られたのだからそれで充分だわ」

「あとで後悔しない?」

「後悔なんかしない、逆に今遥翔さんと結婚しなかったらその方が後悔する。それにね、今のあたしにとっては芸能界にいるよりも遥翔さんと一緒にいることのほうが大事なの」

「そうそこまで、そこまで言うなら仕方ないわね。お父さんこの子本気よ、もう許すしかないんじゃないの?」

それまでずっと腕組みをしながら聞いていた直樹が最後に折れる形で決断を下す。

「そうだな、ここで反対してもお前の事だから勝手に籍を入れてしまいかねない」

「良いの? ありがとうパパ、ママ」

両親の承諾を得た杏奈はその日は実家に泊まり、翌朝一番の便で東京に帰った。
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