淡く儚い月に見守られ
真剣な眼差しで語りだす徳永医師。遥翔にはその表情がとても険しく思えた。

「大丈夫ですか遥翔さん。分かりました、本当の事を話しますから落ち着いて横になって下さい」

「やっと本当の事を言ってくれるんですね」

遥翔が絞り出すような声でそう呟くと、徳永医師はとても言い難そうに全てを語りだす。

「大変言いにくいのですが、実は遥翔さんの治療はもうすべてやりつくしてしまったんです。今までの治療はすべて効果が現れませんでした」

「それってもう手の施しようがないって事ですか?」

「そういう事になります。後は最期のその時まで病気や治療の痛みを取り除いて少しでも楽になるようにする治療をします。ここはそのための病棟なんですよ」

「ぼーっとしていたのはそのためですか?」

「はい、痛み止めのモルヒネの影響です」

「先生この後もそのモルヒネを打っていたらもっとぼーっとして意識のはっきりしない日が続きますか?」

「そうですね、ぼーっとするどころか意識そのものが無くなって寝てばかりの日が続くと思います」

「だったらもういいです」

(もう良いって一体何の事を言っているの?)

この時の徳永医師には遥翔が良いと言った言葉の意味がすぐに理解できなかった。
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