淡く儚い月に見守られ
「良いとは何を?」

「もう痛み止めだけなら打たないでください、治療を拒否します」

「何故です! それではこの病棟に来た意味がありません。どうして治療を拒否するんですか?」

「意識が無くなるくらいならそんな治療なんてしなくていいです」

「本当に良いんですか? 今までは痛みどめのおかげで比較的楽にいられましたが、これをやめてしまったら辛い日々が続くと思いますよ」

「構いません、出来る事ならギリギリまで自分を保っていたいんです」

「分かりました、本人が言うのなら仕方ありませんね。でもモルヒネほど強くは無いですが軽い痛みどめの薬は処方させてください。これは心配する事はありません、モルヒネの様にぼーっとする事も少なく意識がなくなるという事もありませんので」

「分かりました、それだけならいいです」

その翌日から患者である遥翔の意思を尊重しモルヒネの投与は中止された。

二日後、杏奈は緩和病棟に向かうと遥翔がいる病室を訪ねた。
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