淡く儚い月に見守られ
「そんなのダメよ」

「頼むよ、今日は調子良さそうだし屋上まで連れてってくれないか?」

「そんな事言ったって今日は晴れているか分からないわよ、さっき来るときは曇っていたもの。もし曇っていたら月なんか見られないじゃない」

「大丈夫! 今は見られる気がするんだ」

「分かったわ、先生に聞いてみるから待ってて」

仕方なく徳永医師に聞きに行く杏奈。

「あのっ徳永先生お願いがあるんですけど」

「なんですか杏奈さん」

「遥翔さんが月を見たいそうなんです」

「月って病室の壁に貼ってあるあの月?」

「はいあの青空に浮かぶ月です。でも写真ではなく実物が見たいそうなんです」

徳永医師の口からは当然の様に杏奈が期待する返事が帰ってくる事はなかった。

「申し訳ないけどそれは無理ねぇ、いつ体調が悪化するか分からないわ」

それでもこの時の杏奈は引き下がる事を知らなかった。

「お願いします先生、彼にとってはこれが最後かもしれないんです。なのでできる事ならなるべく彼の望みをかなえてあげたいんです」

「分かりました仕方ありませんね。ただし長居は禁物ですよ」

「ありがとうございます、彼も喜びます」

その後杏奈は笑顔を携え急いで遥翔の病室に向かった。
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