淡く儚い月に見守られ
「大丈夫! スケジュールの調整がうまくいけば僕も一緒に付いて行くから。ほんとは社長と杏奈ちゃん二人で行くって言っていたんだけど顔の知られてない社長と行ってももしかしたらどこかの悪徳事務所に騙されているんじゃないかって思われちゃうでしょ。名刺だって今は簡単に作れちゃうしね。だったら僕も一緒に行こうかって事になったんだ。ただスケジュールの調整がうまく行かないとどうにもならないけどね」

両親から許しをもらえるだろうかとの思いから一抹の不安をのぞかせた杏奈であったが、遥翔の言葉により杏奈は再び笑顔を取り戻した。

「ほんとですか? ありがとうございます」

「それでなんだけど」

遥翔は手に持っていた手提げ袋から何やら箱を取り出した。

「これ、コーヒーメーカーほしいって言っていただろ? オーディション合格のお祝い」

遥翔がおもむろに差し出すと、それは単なるコーヒーメーカーなんかではなく安く見積もっても二万円くらいはするであろうイタリア製の代物であった。

「わぁすごい、エスプレッソメーカーじゃないですか。これ高かったんじゃないですか? こんなにいいもの頂いちゃっていいんですか?」

突然の思いもかけない遥翔からのプレゼントに驚き、喜びを隠せない杏奈。

「いいよ、その為に買ってきたんだから。杏奈ちゃんが喜んでくれるならたいした事ないよ。このエスプレッソメーカーだって杏奈ちゃんに使ってもらえて喜ぶと思うよ、大切に使ってあげてね。ついでに豆も買ってきたからね、エスプレッソ用に細挽きのやつ」

「はい、ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
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