淡く儚い月に見守られ
「ママ落ち着いて、撮影でどうしてあたしと一緒に事務所の社長さんまで来るのよ。大事な話があるって言ったでしょ!」

「あっそうよね、取り敢えずあがって下さい。杏奈、とにかく居間にお通しして」

その後玲子は慌てて奥の部屋にいる杏奈の父親である直樹を呼びに行った。

「お父さん大変、遥翔がうちに来たの、杏奈が連れて来たのよ。今日は特上お寿司かしら、それともうなぎにする?」

その声は居間にいる杏奈の耳にも入っており、相変わらずの母親の性格に呆れていた。

「ママ落ち着いてって言っているでしょ。そんな特上なんていらないからね、普通で良いよ。だいたいうちはパパが漁師なんだからこういう時はお魚でしょ! それより早くこっちに来てあたしたちの話を聞いて、パパも」

杏奈と玲子のやり取りにそう言う問題でもないのではないかと思ってしまう遥翔。

同様に岩崎も同じ事を思っているとそこへようやく父親の直樹がやってきた。

「なんなんだ一体、遥翔って誰なんだ?」

そう言いながら居間の障子を開ける直樹。

「いらっしゃい、すいませんね騒がしい家で」

(杏奈の知り合いに遥翔と言う友達がいたかな? この島の人間なら知らないはずはないんだけど……)

このように思っていた直樹であったが、その遥翔がまさかテレビに出ているあの遥翔であった事に驚いてしまった。
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