淡く儚い月に見守られ
「実は本日伺ったのは杏奈さんにうちの事務所とモデルとしてタレント契約を結ばせて頂きたいと思いまして、その前にご両親のお許しを頂きにまいりました」

「お願いパパ、モデルになるのが小さい頃からの夢だったの、その夢が今叶おうとしているの」

杏奈が懇願するが直樹の表情も遥翔同様依然硬いままであり、岩崎の申し出にそれまで浮かれていた母親の玲子もこの言葉により表情を強ばらせていく。

「お前今までそんな事一言も言った事なかったじゃないか!」

「確かにパパやママの前ではそんな事言った事ないわ、あたしにモデルなんて出来る訳ないと思っていたもの。それにもしあたしがモデルになりたいと言ってもきっとパパの事だからまじめに取り合ってくれなかったでしょ、でも本当はずっと前から憧れていたの」

「そんなこと言ったって会社はどうする。小さな会社とはいえ内定貰ったんだろ? だから上京して東京で暮らす事を許したんじゃないか」

「内定は辞退するしかないわ」

この時杏奈は父親である直樹の目をしっかりと見る事が出来ず、思わず俯き視線を逸らしてしまった。

「何バカな事言っているんだ! ようやく内定も決まってこれから入社式だって言うのに。お前はこれから社会人になるんだぞ、そんな無責任な事でどうする!」
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