淡く儚い月に見守られ
「パパお願い、あたしだって自分が無責任な事を言っている事くらい分かっている。でもチャンスなの、これを逃したらもう二度とこんなチャンスは無いかもしれないの、目の前にあるチャンスをつかみたいの」

今度ははっきりと視線を直樹の方に向け、直樹の目をしっかりと見ながら涙を流し訴えかける杏奈。

「だからって芸能界なんて言う得体のしれない世界にそうやすやすと大事な娘をやれるわけないだろ! だいたいどうしていきなりそんな話になったんだ」

ここで二人の間に遥翔が割って入った。

「それは僕の方から説明します」

「なんですか遥翔さん、杏奈がモデルになりたいだなんて言い出した理由が分かるんですか? そもそもなぜこの場にあなたがいるのか疑問に思っていました。私達の承諾を得るにはこの子と岩崎さんだけで充分なはずですから、その事も含めて説明して頂けますか?」

「その事はあたしから説明させてパパ」

「なんだ杏奈、言ってみなさい」

「最初はあたしと社長さんだけで来るはずだったの。だけど遥翔さんが顔の知られてない社長さんが来てもどこかの悪徳事務所に騙されているんじないかって思われないか心配してくれたのよ。今は偽物の名刺なんて簡単に作れてしまうから。でも遥翔さんがいれば顔は知られている有名人だから心配ないだろうって事でわざわざスケジュールを調整してくれて来てくれたの」

「それは分かった。でもそれが何故彼なんだ?」

直樹の問い掛けに静かな語り口で説明を始める遥翔。
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