淡く儚い月に見守られ
「そうですか、どうなんだ杏奈? 芸能界なんて所は浮き沈みの激しい厳しい世界だ、それに潰しのきく商売じゃないだろう、売れなくなってもすぐに次の仕事って訳にいかないと思う。もちろんすぐに売れるとも限らない。それでもやりたいか?」

「うんやりたい!」

「売れなくても売れるまで耐える事が出来るか?」

「夢の為なら耐えてみせる!」

「売れたら売れたでプライベートなんてものは無くなってしまうんだぞ!」

「夢の為なら我慢する」

はっきりと言い切ってみせた杏奈を見て直樹は決意を固めた。

「そうか、そこまで言うなら仕方ないだろう、岩崎さん娘をよろしくお願いします」

「じゃあ良いのパパ」

 まさか本当に直樹が許してくれるとは思わなかったため、杏奈は瞳を潤ませながら喜びの声を上げていた。

「事務所はちゃんとした会社みたいだし社長の岩崎さんも信頼できそうだ。それにお前はダメだと言ってもきかないだろう、仕送りも考えてみよう」

「ありがとうパパ」

ところが突如とした直樹の表情が険しいものへと変わり、岩崎に一つの注文を付けた。

「岩崎さん、その代り一つ条件があるのですが受け入れて頂けますか?」

「なんでしょう条件と言うのは」

一体何を言われるのか岩崎が不安に思っていると、それは父親として当然と言えるものであった。
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