テイスト・キッス。【短編】
全校生徒が体育館に集まっているのだから、見失ってもおかしくない。
だけど、何故か胸騒ぎがして、あたしは里枝に一声かけた後、人波の中を走り出していた。
―――いない。
いない、いない、いない!
焦りを感じたあたしは、とうとう体育館からも飛び出していた。
静かな廊下で、あたしの足音だけがパタパタと響く。
あたしは何故か、導かれるように一直線に教室に向かって走っていた。
「神藤くん……!!」
ガラッと勢いよくドアを開けたその先には、やはり神藤くんが机に座って、佇んでいた。
忘れるはずもない。
そこは、あたしが神藤くんにキスした席。
昔は神藤くんの席で、今はもう別の誰かのその席だった。
「やっぱり見つかっちゃったね」