今すぐここで抱きしめて
「いらっしゃいませ。あ、歩美ちゃん、いらっしゃい」


笑顔で声をかけてくれたマスターに手を上げながら、そのままカウンターのスツールに座った。


55を過ぎたマスターはご自慢の髭がとてもよく似合っていて紳士と呼ぶに相応しい。


「今日は何にする?」


「待ち合わせだから、んー、甘めのカクテルで」


「もしかしてデート? やっと、歩美ちゃんも結婚に近づいて……」


ホッとした表情を浮かべるマスターにフッと自嘲じみた笑いがこぼれる。


7年ここに通い続けている私をマスターは娘みたいに心配してくれていて、待ち合わせだと言えばいつも安心したようにホッとするから、


「デートじゃなくて、後輩とご飯に行くの」


いつものように違うって事を伝えると、あからさまにがっかりする。


マスターは眉を下げたまま、作ってくれたピンク色したお酒とつまみのナッツを出してくれて、口を付けたところで入り口のドアが開いた。


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