今すぐここで抱きしめて
「それは……」


飯田くんとのあいだに、なんとも言えない空気が広がる。


困ったように眉を下げて、言葉を探しているようで。


フッと自嘲じみた笑いが浮かんで、なんだか惨めな気分になった。


「離して」


「小柳さんが好きなんです!!」


「笑わせないでっ!!」


間髪入れずに叫んだ大きな声に怯んだ隙に、腕を引き抜くとそのまま駆け出した。


もう飯田くんは追いかけてくることもなかったけど、駅までの道をただただ走った。


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