今すぐここで抱きしめて
「ところで歩美さん……」


意味ありげに笑みを浮かべた彩ちゃんが、口元を手で隠すようにしながら私の耳もとに近づいた。


「…………?」


「そろそろ彼氏できました?」


「…………」


いきなり何を言い出すんだ、この子は。


長い睫毛をバシバシと羽ばたかせている目を、呆れた目でじーっと見つめているとその目尻がガクッと下がって、


「やっぱりまだいないんですね!? もうー、何人見送ったら気が済むんですか!?」


可哀想な子を見るような表情で私の肩を掴んだ。


同じように私も目尻を下げて、肩にかかった手をそっと外すと、フーッと息を吐き出した。


「何人って……、もう、ほら、仕事仕事! 彩ちゃん、今日は打ち合わせ入ってんでしょ。準備はしたの? 私も今日はフェアの進行だからもう行かないと。じゃあね」


まだ何か言い足りなさそうに口を尖らせた彩ちゃんを横目に、さっきまで入力していた書類を印刷した後、チャペルの方へ向かった。
< 4 / 45 >

この作品をシェア

pagetop