今すぐここで抱きしめて
「小柳」


ふいに名前を呼ばれて振り返ると、“STAFF ONLY”と書かれた扉の前で山瀬さんが腕を組んで立っていた。


細いメタルフレームのメガネをかけた仕事モードの山瀬さんは、こっちに来いっていう視線だけよこして中へ入ってしまった。


「……お疲れ様です」


そう言いながら中に入ると、山瀬さんの姿が見えなくて、


辺りをキョロキョロとしながら書棚の方へ進んでいくと、突然、後ろから抱きすくめられた。


「歩美……」


数時間前にベッドで聞いた私の名前を呼ぶ低くハスキーな声と耳もとにかかる息に心臓がギュッとなった。


「あの、もう行かないと」


「今日、誕生日だったんだな。なんで言わなかったんだよ? そしたら、ずっと一緒にいてやったのに」

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