今すぐここで抱きしめて
ズイッと身体を乗り出して部屋に入ろうとする飯田くんを自分の身体で制しながら、


「ううん、大丈夫。今日、使うものじゃないから」


そう言って後ろ手でドアを閉めて、「ほら、チャペルに行こう」と促した。


最後にチラッと見えた山瀬さんは余裕の笑みでこっちを見ていて、一人焦る私がバカみたい。



チャペルの裏から入るとすぐの所が祭壇で、既にウェディングドレスとタキシードを着た今日のモデルの人が牧師さんと他のスタッフで打ち合わせをしていた。


細かい指示を飯田くんにして、私はチャペル内を一周する。


装花OK、装飾OK……、


回廊を飾るステンドグラスに目を向けると、お祈りするマリア様。


重厚な扉の前から祭壇へと続く、永遠を意味する青いヴァージンロード。


ここには幸せへの道が溢れているのに、こんな仕事をしながら不倫だなんて、もう幸せになる術なんて見当たらない。

< 9 / 45 >

この作品をシェア

pagetop