sweet memory
その頃雨宮家では、律によって花菜の着付けが行われていた。
「りっくん、自分で着れるよ」
「知ってる。昔はよく俺や兄貴が着せてやんないと着れなかったのにな…。だけど…今日は……これで最後だから、俺にやらせて?」
「何それ。変なりっくん。まるで私がお嫁に行っちゃうみたい」
「ん~…花菜。そのまさかだよ」
「えっ?!」
「兄貴に何て聞いたんだよ」
「…会って欲しい人がいるって…」
「つまり、今日のはお見合いってこと。まぁ、相手が相手だから断れない」
「そんな…それって、政略結婚ってこと?」
「いや…それは……」
「仕方ないよね…。何時かはそうなる運命だと思ってたし、それが早かっただけだもんね」
「花菜、だからな…」
「りっくん!気にしないで?私、その相手の人と頑張るから」
「花菜…」
「よしっ!後は髪の毛をちゃちゃっと纏めちゃうから、待ってて」
「あぁ…」
律は花菜に伝えたいことを思うように伝えられず、苦笑いしていた。
そのまま訂正しなかった事を、律は後に後悔することになろうとは、この時は予想もしなかった。