雨音を聴きながら
交差点に足止めされていた疎らな人が、ゆっくりと動き始める。色とりどりの傘が揺れながら流れてく。
流れに気づいて、彼の意識が逸れていく。
行かないで……
心に波が押し寄せる。
まっすぐ手を伸ばした。
掲げた傘を彼に向けて。
「この傘、使ってください」
うんと押し付ける。
どうしていいのかわからないと言いたげな彼の顔。
手から離れて傾く傘を、彼の手が受け止める。
「でも……」
言いかけた彼の言葉を遮って、深く頭を下げた。
「いいんです、私は地下鉄ですから、使ってください」
言い終えて顔を上げたら、戸惑いながらも微笑んでいる彼。ぎゅっと胸が締め付けられる。
精一杯、笑って返した。
すると彼が、
「ありがとう、一緒に……」
と言って、傘を掲げる。
彼の声が染みてく。
胸がぽうっと熱くなる。