そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】
その時、タイミングをうかがっていたのか、
店員がコーヒーが3つ、テーブルに持ってきた。

それをどこにと迷っていると、男が店員からコーヒーを受け取る。

男は、まず女に、次にあの人に、そして最後に自分の前に
コーヒーを置いた。

……その瞬間、私はそこにいないことにされていることが
はっきりと分かった。

ちらっと女の顔を見ると、女は私に向かって微笑んでいた。
でも目の奥は笑っていない。

私は…膝の両手をより一層握りしめる。

仕方ない。私は所詮そういう立場。そういう身。

夢なんて見ようとしたから、勘違いしそうになったから
こんなことになる。

だから、こうやって思い知らされるんだ。

もう、勘違いしない。もう…二度と勘違いしたりはしない。

それなのに、あの人は突然立ち上がって、私の左手を引いた。

私はその行為をどうとったらいいのか、
どうしたらいいのかわからず、

あの人の手を振りほどいてその場に立ち尽くした。

振りほどいて逃げようとする私の手を
あの人がもう一度力強く握った。


その握る掌に、あの人の意思を感じる。

でもこんなところで…
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