そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】

引き換えた物

相良(さがら)ひな 34歳。


あの日、私は…あの人に抱かれた。


でも、それは愛情や感情の全く伴わない、

ただお互いを欲望の吐け口にしただけのこと。


私の中では、一度結ばれたらそれでいいと

意識を手放すその瞬間までは思っていた。


全てがどうでもよくなり、快感に身をゆだねて…

あの人ですべてになった。


その快感は…どんな毒であっても甘かった。


それまで私が願っていたことは、

ただ思い続けていたあの人に抱かれることだったから…


しかし、一度触れてしまうと触れられてしまうと、

次を期待してしまう自分がいる。


あの人との夜は、想像をはるかに超えて…素敵だった。


女としての悦びを改めてあの人に刻み込まれ

快感を知った私にとって次がないことは…拷問に等しい。


躰が…燻る。またあの日までのように修道女のような

そんな虚しい生活ができるのか?


清貧を貫いて、娘たちのためだけに生きていけるのか?


日常の生活で視界に入るあの人の姿。

快楽をくれた躰。すれ違うたび甘く感じるフレグランスの香り。

…そんなの無理だ。





あの快感が欲しい。




あの人の香りが鼻孔をくすぐる度に感じてしまう。


あの快感をくれる…あの人が欲しくなる。
< 4 / 71 >

この作品をシェア

pagetop