そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】

喧噪

研修のあの日の後。
そういう契約が成立してから、あの人は、目覚めた私の横に
眠っていることが多かった。

穏やかな寝顔。ひとたびその瞳が開けば
喰らい尽くす野獣と化すあの人とのつかの間の時間。

一緒に目覚めた時は何か嫌味を言うわけではない。
それから、私を抱くわけでもない。
ただ、私の身体を洗い、一緒にシャワーを浴びるだけだ。

そして、ぽつぽつ私の話す言葉に相槌をしてくれた。

目が覚めた後の様子は夜の野獣のようなあの人ではない。
仕事をしているときのような物静かで情熱を秘めた
あの人だった。

バスルームから出て、身支度をする。

どうしても女の方が時間がかかってしまう。

その日、早く身支度を終えたあの人は
荷物を持ち、テーブルの上に茶封筒を置いて
私の視線に自分の視線をしばらくの間絡めてから…




静かに部屋を出ていった。


私はテーブルの物には目もくれず、静かに部屋の窓に近づく。
そこは眺めの良い部屋だった。

「夜しかいないから何階でもいっしょなのにね…」


あの街の喧騒の中に消えるのだろう…

そこに一度混じってしまえばもう私の物ではない。

もう二度とあの人と二人きりで喧噪に混じることはないのだから…
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