そのキスの代償は…(Berry’s版)【完】
「白石課長。よろしくお願いします」

顔を上げた瞬間息が止まった。見開いた瞳に映り込む彼女。

思わず「薫(かおる)…」

俺はそうつぶやいてその場に立ち尽くした。

カノジョは不思議そうな視線で俺を見つめる。

その瞳は、俺を愛おしそうに見つめるときの彼女にそっくりだった。

「課長?課長?大丈夫ですか?」

しばらく固まったまま動けない俺を心配してカノジョが一歩こちらに近づいてきた。

その香りが鼻孔をつついた瞬間、口の中に苦いものが溢れ胸が締め付けられた。

そういう感情の揺れに気が付かれないように俺は視線を逸らし、カノジョに背を向けた。

瞼を閉じて思い出すのはかおるのこと。

もうずいぶん長い間忘れていたのに…

彼女を思い出すことは、その引き裂かれた心の痛みを思い出すことだった。


「支社長室に行ってくる…」

俺はそれだけを言ってカノジョに二度と視線を向けることなくその場を後にした。

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