君の冷たい手と
高校1年生

放課後

「昨日さ彼氏が遊園地に連れて行ってくれたんだぁ」
「マジか!?羨ましい~。うちも早く彼氏欲しいな」
「美優はぁ、可愛いから絶対良い彼氏が出来るって!」

教室でうしろの席から聞こえる恋バナに、五十嵐姫響は朝からうんざりしていた。
高校に入学し、やたらと増えたカップル。
何度このような会話が耳に飛び込んできたことか。

姫響は、黒髪を丁寧に耳の下で二つに結び、膝がやや見えるくらいのスカート。もちろん化粧気は無く、表面は絵に書いたような真面目な生徒である。

恋に興味が無いわけではないが、好きな異性はおろか、仲の良い友達さえいなかった。
入学して2ヶ月経った今でもクラスに馴染めていない。

恋の話なんて男子が居る前で堂々と話すようなことじゃないと思うんだけどな。せめて私には聞こえないようにしてよ。聞いちゃいけないものを、聞いた気になるからさ。
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