悪魔の彼
王は盗賊を追うことも忘れ、死体をみた。
「これは、誰が……?」
俯いたまま彼は言う。
今更ながら、王はいつも俯いていると思った。
「私よ?何か?法にはふれていないはずだわ。」
幼い顔をしながらも、成人女性のような声で『私』は言った。
しかし、私がそれに驚くことはない。
この空間にいることで、少しずつ記憶が戻り始めたのだ。
「王様、顔を上げてこちらを見てくれませんか?私の教育の不届きのせいです。」
その声と同時に王は顔を上げ、また私もまだ戻った記憶にはない母の顔を見た。
私はその瞬間、王の頬がほてるのを見た。
「この私が悪いのです。どうか娘の事はお許し下さい。」
母は美しかった。
美しい人にあう度に、この人以上はいないと思ってきたが、母の美しさはずば抜けていた。
これほどに完璧な人がこの世に居ていいのかと思った。
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