黄昏に暮れる君へ
少女の記憶
赤い、赤い。
真っ赤な霧が、私を包む…――。
「…嗚呼…、どうしようもなく…、一人ね…」
…一人?
いいえ、独り。
私はずっと、ずっとずっと、この吸血鬼たちの棲む幻想郷―ローゼ=イリュジオンという―の、奥の森にある、灰色の孤城の最上階にいた。
ずっと、ずっと独りで、私は、ここに誰かが来るのを、ずっと、ずっと待っていた――。
今はもう遠い昔、まだ私の髪が黄金の輝きを持っていたとき。
月が傾き始めた頃に、孤城の周りが騒がしくなった。
閉じ籠っていた窓の向こうの銀色の月は、いつもと違い赤く染まっていた。
…否。
「違うわ…、これは…」
――赤い霧?
その時だった。
「……っ!」
ドクン、と。
胸に大きな違和感が走った。
声にならない声を漏らして、胸を苛む痛みに耐えていた。
…この時の私は知らなかったのだ。
この呪われた赤い霧の意味も、この胸の痛みの理由も…――。