極上ラブ ~ドラマみたいな恋したい~
その車の正面には、見たことのある4連シルバーリングのエンブレムが付いている。車がそんなに詳しくない私でもわかる、有名な外車。シルバークリスタルのステーションワゴンで、それだけでカッコいい人が乗ってるんだろうなぁ~と勝手に妄想が始まってしまった。
これが恋愛ドラマだったら、中から意中の人が降りてきて、自分が着ていた上着を身体にサッと掛けてくれるんだろうなぁ~。
そしてずぶ濡れの身体を抱き車に乗せると、車を走らせる。
黙ったまま助手席に座っていると、着いたのは男性の家で……。
なんて。こんな状況でも妄想ができちゃう私って、悲しい。
だけどこの車は私の知らない車。きっと偶然ここに停まっただけで、私には全く関係のない人。
妄想、終わりっ!!
これまた雨で重くなっているリュックを「よいしょっ」と背負い直し、また歩き出そうと一歩踏み出すと、中から降りてきた人に声を掛けられた。
「菜都さん?」
へっ? 今、『菜都さん』って私の名前呼ばなかった? 雨が降ってて聞き間違えた?
雨の音がうるさくて、その声が誰なのかもわからない。
もしかして、私じゃない人のことを呼んだのかとキョロキョロしても、私以外に人は見当たらない。当たり前だ。こんな雨の中ずぶ濡れで立ってる女、そうそういない。
やっぱり私のことを呼んだのかも。
意を決してゆっくり振り向くと、そこに立っていたのは───