紫陽花ロマンス
「実家が近いといいよね、僕もたまにしか帰らないけど、帰った時には食材やティッシュペーパーとか、いろいろともらって帰るんだ」
そういえば以前、大月さんもひとり暮らしだと言ってた。実家は月見ヶ丘だと。
「どうして大月さんは、ひとりで暮らしているんですか?」
つい疑問が口をついて出た。聞くべきじゃなかったのかもと思ったけど、もう遅い。
顔を伏せて、アイスコーヒーをぐっと飲み込んだ。
「僕の兄が結婚して、実家で同居してるんだ。なんとなく邪魔してるみたいだから、家を出たんだよ」
大月さんは笑って答えてくれる。
「そうだったんですね……」
どうして職場に近い月見ヶ丘じゃなくて、この近くに住むことにしたの? とさらなる疑問が沸き上がるけど、口を噤んで堪えた。
「どうして月見ヶ丘に住まないのか、疑問に思った?」
ふいに大月さんが身を乗り出した。心を読まれているのかと焦って顔を伏せると、
「とくに理由はないんだけど、この辺りの方が便利だったから。でも、ここに住んでよかったのかなと最近思うんだ」
私の顔を覗き込んで、大月さんが微笑んだ。
なぜだろう。
とくんと胸の奥が揺らいだ。