紫陽花ロマンス
「たぶん……すれ違ったことはあると思う。気づかなかっただけなんだよ」
胸の揺らぎを抑えながら答えると、大月さんが穏やかに微笑んだ。
笑って返したけど、すぐにアイスコーヒーへと視線を落とした。だって、目を合わせるのが怖い。
それなのに、大月さんは私を見ている。早く視線を逸らしてほしいのに。
お願い、私を見ないで。
微笑んだりしないで。
「萩野さん、顔上げてよ」
優しい声が降ってくる。
ぎゅっと唇を噛んで、覚悟を決めた。
恐る恐る顔を上げた私を迎えてくれた大月さんは、想像したとおりの優しい顔をしている。
「もっと早く、萩野さんと会えたらよかった」
と零した大月さんの目が揺れている。
「そうですね、すごく近くにいたのに不思議ですよね」
平静を装っているけど、実は声を発するのが精一杯。次第に直視できなくなってきて、再び目を伏せる。
「萩野さん、しつこいけど本当にお願い。もう敬語は使わないで、改まったりしないで普通に話してよ」
大月さんが笑い出す。