紫陽花ロマンス


もう、何度言われたかわからない。きっと物分かりの悪い女だと思われているんだろう。それでも構わない。


「うん、わかった」


答えたけど、タメ口で話すのは抵抗があるし話せる自信はない。タメ口で話そうとすると、話してはいけないと頭の中で警報が鳴り出すみたいで。


私が敬語で話すのは、大月さんと適度な距離感を保ちたいから。


必要以上に大月さんに近づかないように。


大月さんが危険だというわけじゃない。本当にいい人だと、十分過ぎるほどわかっている。


だからこそ、近づけない。


頬杖をついた大月さんが、私を見てにこりと笑った。


胸が苦しい。
もう何にも言わないで。


「ごめん、僕は嘘をついたかも……『やましい気持ちはない』って言ったのに、今の僕はやましい気持ちでいっぱいかもしれない」


思いきり、胸を貫かれる。


やめて、こんなはずじゃなかったのに。


頭がぼーっとしてきた。
顔が真っ赤になっているのがわかる。


大月さんが返事を待ってるのに、言葉が浮かばない。






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