紫陽花ロマンス
「正直に言うと、最近会えないから気になってた。実は昨日も来たんだよ、萩野さんに会えるかなと思って」
「あ、昨日は休みだったから、私も……」
言いかけて、慌てて口を噤んだ。
私も気になっていたなんて、絶対に言うものか。
だけど、本当に気にしてくれて、会いに来てくれたのなら嬉しいと思ってしまったのは事実。
大月さんの影が遠ざかる。
後を追って、ちらりと見上げた。
視線の先には、一組のカップル。先週、大月さんが見ていた二人だ。
腕を組んで肩を寄せ合い、フードコートへと歩いてる。顔を見合わせる様子は、先週見た時と変わらない。
「知ってる人?」
思わず尋ねてしまった。
言ってしまってから後悔したけど、黙っていられなかった。
「うん、昔付き合ってた彼女なんだ」
寂しげな目を隠すように、大月さんは目を閉じた。
少しも驚かなかったのは、予想した通りの答えだったから。わかっていたから、あえて聞いたのかもしれない。
私は馬鹿だ。
聞き出してどうするつもりなのか、自分でもよくわからない。
「そう、ごめん」
「いいよ、もうケリはついてるから」
微笑んでみせるけど、悲しみは隠しきれない。