紫陽花ロマンス


「彼に、奪われたの?」

「違う、僕が愛想をつかされたんだ。彼女のために良かれと思ってしたことが全部うまくいかなくて……僕が未熟だったんだろうな」


大月さんが重い声で吐き出して、目を閉じた。きっと瞼の裏には、付き合っていた頃の彼女の姿が映っているんだろう。


大月さんにとっては、愛おしい思い出に違いない。だからこそ、あんなにも寂しい目をするんだ。


それを振り払ってあげるべきなんだろうか。私が振り払ってもいいのだろうか。


「大月さんは悪くない、ただ不器用だったんだよ。タイミングが悪かっただけ、私も同じだから」


迷いながらも告げたのは、自分に対しても向けられた言葉。


大月さんが振り払うかどうかはわからない。だけど、私は自分自身の過去を振り払いたいと思った。


「ありがとう」


穏やかに微笑んだ大月さんが、私の手を引き寄せる。


ぎゅうっと両手で包み込んでくれる温もりは、穏やかな揺らぎとなって体の芯まで満ちていく。


こんな感覚、久しぶりかも。




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