紫陽花ロマンス


落ち着け、落ち着け……
唱えながら、すうと息を吐く。


「うん、でも、あまり保育所休ませたくないし……休むと保育所のこと忘れて、泣いたりするかもしれないから」


よし、噛まずに言えた。
努めて平静を装う。


「だったら電話するよ、月曜日の夜に。それでいい?」


と言って、大月さんは携帯電話を取り出した。


「萩野さんの番号、教えて」


有無を言わせない笑みで、大月さんが迫る。


しまった。以前に二回も携帯電話の番号をメモして渡してくれたのに、どこに入れたのか覚えてない。


おろおろしていると、包んだ手をぎゅうと握り締めて答えを迫る。


「そうだ、買い物も付き合うよ、僕が荷物持つから、普段買えない重い物とか買ったらいいし」


これが彼の言う『やましい気持ち』だったのかもしれない。


私が「うん」と言って首を縦に振るまで、大月さんは手を離してくれなかった。







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