紫陽花ロマンス
目的地は決まってないけど、とりあえず私の車で出かけることにした。念のため、先日買った百円のビニール傘を載せて。
「今日は降るって言ってた?」
と大月さんが空を見上げる。
「今は晴れてるけど、一応お守り代わり」
するとわかったような、わからない顔をして大月さんが首を傾げる。
きっと気づいていないんだ。私たちが会う時、必ず雨が降っていることに。
大月さんが運転してくれるというから、私は助手席に座った。自分の車の助手席に乗るなんて初めてだし、新鮮かも。
「茜口(あかねぐち)のウェストコートにでも行ってみる?」
車を走らせながら、大月さんが言った。そういえば、車は茜口の方向へ進んでいる。
茜口は霞駅から特急電車に乗って十五分、隣の市の主要駅で霞駅よりも大きな駅。その駅前に四、五年ほど前にできた大型複合商業施設が、茜口ウェストコートだ。
茜口駅から直結していて、霞駅のショッピングモールより大きい。この辺りにはない珍しい店舗も入っているから、いつも混雑していると聞く。
「私、開店してすぐの頃に、一度行ったきりかも」
「僕もだよ、今日は平日だから空いてるかな、お昼もそこで食べよう」
ドキドキするのは、楽しみになってきたからかな。